全般性不安障害はDSM-5においては不安障害群のなかに含められている疾患です。全般性不安障害はICD-10とDSM-5で診断基準も大きく異なるため注意が必要な分野であり、とくに問題ごとに「これはどちらの話をしているのだろうか?」と立ち止まって考える必要があります(そういう意味では問題作成側に配慮が足りない悪問です)。
正解は b, c です。
解説
先述したように全般性不安障害はICD-10とDSM-5で診断基準も大きく異なり、かつ問題作成者側が意図せず(?)DSM-5とICD-10の診断基準を往来するために、問題ごとに「これはどちらの話をしているのだろうか?」と立ち止まって考える必要があります(そういう意味では問題作成側に配慮が足りない悪問です)。今回の問題は、DSM-5に準拠して問題作成がなされていると考えられます。
DSM-5において全般性不安障害は「多数」の出来事または活動に対する過剰な不安と心配を持つことで有意な苦痛と機能障害をきたしていることがその本態となります。以下にDSM-5の診断基準を一部抜粋して掲載します。
診断基準
A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動について過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6ヶ月間にわたる。
B.その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている。
C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヶ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。
注:子どもの場合は1項目だけが必要。
(1)落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
(2)疲労しやすいこと
(3)集中困難、または心が空白になること
(4)易怒性
(5)筋肉の緊張
(6)睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または落ち着かず、熟眠感のない睡眠)
それでは各選択肢を検討しましょう。
c, d
全般性不安障害における不安は、特定の状況に限定されることなく、たとえ不安の対象が疾患経過にわたって変化していくことはあっても、ほとんどあらゆることに対しての過剰な不安を抱きつづけることが特徴になります。子どもの時には「運動会での出来が悪かったらどうしよう」というような評価にかかわることから「地震が起きたり隕石が落ちてきて家が壊れたらどうしよう」などといったことにまで広範にわたることもまれではありません。よって、「状況限定的でなく、持続する不安を呈する」ためにcは正解であり、dは誤りです。
a
DSM-5にも記載されているように「全般不安症をもつ人の多くは、身体症状(例:発汗、嘔気、下痢)と過度の驚愕反応も経験する。パニック症のようなほかの不安症群と比べると、自律神経の過覚醒症状(例:頻脈、息切れ、めまい)は全般不安症では目立たない。ストレスと関連することのある他の状態(例:過敏性腸症候群、頭痛)に全般不安症を伴っていることも多い」と身体症状の合併は多いと考えられます。そういった身体症状のために内科受診を繰り返すことも多く、選択肢は正しいと判断できます。※ICD-10におけるGADの診断基準においては「運動性緊張(落ち着きのなさ、筋緊張性頭痛、振戦など)」「自律神経過活動(ふらつき、発汗、頻脈、呼吸促拍、めまいなど)」が含まれており、上記DSM-5における診断基準とは異なっているので注意を要します。
b
全般不安症患者の「50%~90%は他の併存する精神疾患を持っている可能性がある(カプラン)」とされ、特に「25%の患者が結果的にパニック症を経験する(同)」とされます。※要注意
ICD-10における全般性不安障害の診断基準においては『患者はうつ病エピソード、恐怖症性不安障害、パニック障害あるいは強迫性障害の診断基準を完全に満たしてはならない』という除外規定があるために、この問題がICD-10に準拠していると考えると正答が2つ選べなくなります。よってこの問題はDSM-5に準拠していると考えました。e
全般不安症の薬物治療としてはSSRI、ベンラファキシンなどを主剤とし、適宜BZDs系薬剤を併用する方法が一般的です。現に全般性不安障害のガイドラインにおいてはSSRIの有効性が確立されており、かつSNRIとともに第1選択にも指定されています。
この問題は全般性不安障害に対しての正確な知識がなければ解答に悩むと思います。
a.eが間違いであることはすぐにわかると思いますが、私自身も恐らく正解はb.cだろうと直感的に判断できますが、診断基準をちゃんとみたことがなかったためdが本当に間違っているのかの確信は持てませんでした。操作的診断基準に関しては精神科医の共通言語になるため、専門医試験を機会に学びましょう。
第9回 解答一覧
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