精神科専門医 第9回54番 症候学

精神医学における「有名な名称のある症候群」についての問題です。9-52にも類題があるため、出題者が同じなのでしょう。
こういった名称は近年で使用されなくなっていく傾向にはありますが、歴史的観点からも教養として知っておくべきということと思われます。

今回は第9回54番です。
正解は e です。


a

コタール症候群(Cotard syndrome)は種々の臓器や全身が破壊された、あるいは存在しないという否定妄想を中心に、抑うつ、不安、劫罰/憑依妄想、自傷・自殺傾向、痛覚消失、不死妄想などをともなう症候群です。Cotardはメランコリーの重症型における心気妄想についてという論文において発表したように、精神病性を伴う重症うつ病において稀に見られます。


b

バリント症候群(Balint syndrome)は以下の3症状を主徴候とする、視空間障害です。精神性注視麻痺(視線を随意に移動できない)、視覚性運動失調(目の前の対象を掴めない)、視覚性注意障害(注視している対象以外に注意が及ばない)。両側性の頭頂後頭葉が責任病巣として推定されており、3徴候の揃わない不全型まで含めると、脳血管障害が病因として多いとされます。


c

カプグラ症候群(Capgras syndrome)は人物誤認としての症状の一形態であり、瓜二つの錯覚(illusion des sosies)とも言われます。「よく知っている人物が、その人ではなく別人や偽物にすり替わっていると主張する」症状を主とします。
脳器質疾患に伴って生じるカプグラ症候群の場合は顕著ではありませんが、統合失調症例におけるカプグラ症候群においては、離人症や体感異常を伴うこともあるとされます。
また、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症でも見られることがあります。


d

ゲルストマン症候群(Gerstmann syndrome)は手指失認、左右失認、失算、失書を4徴候とする症候群で、角回が責任病巣とされています。優位半球の頭頂葉の障害です。


e

シャルル・ボネ症候群(Charles-Bonnet syndrome)は意識清明で視力低下があり、認知症のない老人の10%程度に見られるとされる要素ないし有形の幻視のことです。



参考文献
精神症候学 第2版

Further Reading
臨床精神医学 44巻2号 「特集 精神科医が知っておくべき症候群」



人名に関する症候群は有名なものに関しては知っておくと共通言語として便利です。
この設問の症候群は比較的有名なものですね。私自身はバリント症候群は何回か勉強をしていますが、実際の症例を経験したことがないので中々記憶できません。
コタール症候群はインパクトが強いため、一度経験すると記憶に残ります。
有名な人名に関する症候群は、別の項で詳しく扱いたいと思います。

まとめ 「人名を冠した症候群」


第9回 解答一覧


目次です。各記事まとめもあり。

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