クロザピンの使用経験がある精神科医は限られていると思うため、簡単に復習しておくと良いですね。
今回の問題は第9回の7番です。
正解はa.cです。
a
クロザピンは治療抵抗性統合失調症に用いられます。この薬剤は1970年代に海外で使用されていましたが、無顆粒球症による致死的副作用を認め販売中止となっていました。
ドーパミン遮断はそれほど強くないのが特徴的な薬剤ですね。
主な重篤な副作用としては、無顆粒球症、てんかん、心筋炎です。
無顆粒球症
特に、顆粒球減少、無顆粒球症が起きると、現在の日本では白血球3000、好中球1500未満で基本的には今後クロザピンの使用が不可能になります。致死的なイベントに繋がる発熱性好中球減少症に要注意です。
無顆粒球症はクロザピン曝露の初年度では約0.3%で、その後のリスクは大幅に低下するとされています。
てんかん
ほかの抗精神病薬よりも発作リスクが高いとされている。
600mg以上では5%に達するとされ、発作に対しては減量とともに、抗けいれん薬(多くはバルプロ酸)での管理が可能とされています。
心筋炎
1年あたり、10万人あたり約5名の割合で心筋炎が報告されています。
心筋炎は致死的となりうるため、「胸痛・呼吸促迫・発熱または頻呼吸を示す患者はただちに心筋炎・心筋症の可能性について評価すべきである」とカプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開 第3版においても注意喚起がされています。
b
MEDICAMENT NEWs 統合失調症 2015年1月25日 日曜日 |
これはデンマークの研究です。統合失調症と一般人口の寿命差についてのデータです。
一般人口集団の寿命が延びていることで、さらに差が大きくなっていることがわかります。
5%どころでなく、男性では約20%の差が見られることがわかります。
c
ドーパミンは漏斗下垂体系でのプロラクチンの放出を抑制しています。そのため、抗精神病薬によりドーパミンが遮断されるとプロラクチンの放出が促進されます。
これが乳汁分泌に関わっていることは有名です。
さて、骨粗鬆症に関してはどうでしょうか。高プロラクチン血症は視床下部での性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌を抑制します。
GnRHの抑制により、下垂体での黄体化ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌低下,さらに性腺でのエストラジオール,テストステロンなどの性ホルモンの分泌が低下します。
その結果、閉経後骨粗鬆症様の骨代謝異常が生じます。
d
抗精神病薬の添付文書にはQTc延長について記載されていますが、その程度は薬剤によって様々です。
カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開 第3版では、アリピプラゾールは有意にQTcを延長はさせないと記載があり、薬剤ごとのQTcへの影響は異なっています。
e
英国のデータベースで、抗精神病薬を内服していない患者のデータでもSMRは高く、抗精神病薬は限定的な影響しか与えていないことが示されています。また、統合失調症の寿命は一般人口より15~20年短く、その差が28%が自殺、約12%は事故死、約59%は自然史で説明されるとも報告されています。
これは、抗精神病薬累積試用期間と死亡リスクをみた研究のデータです。
統合失調症患者への抗精神病薬治療と生命予後一フィンランドにおける長期間の全人ロ調査結果から一 |
統合失調症と薬剤に関する問題でした。この問題は正解を選ぶことは可能だったと思います。しかし、設問毎に提示されている内容は精神科医として重要な内容であり、この機会に復習をしておきましょう。
参考資料
・カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開 第3版
・No.4808 2016.6.18日本医事新報
・統合失調症患者への抗精神病薬治療と生命予後一フィンランドにおける長期間の全人ロ調査結果から一 Schizophrenia Frontier vol. 11 No.2 55・Osborn DPJ, Levy G, Nazareth I, Petersen I, Islam A, King MB. Relative risk of cardiovascular and cancer mortality in people with severe mental illness from the United Kingdom’s General Practice Rsearch Database. Arch Gen Psychiatry. 2007;64:242-249.
第9回 解答一覧
目次です。各記事まとめもあり。
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